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いま、我国の65歳以上の高齢者は年毎に増える傾向にあります。そのことは、人生80年といわれるように、かなりの人々が長生きできるようになったことでもあります。従って、私たちは健康で、しかも、充足感のある高齢社会を形成していきたいという願いを持つようにもなってきています。

 しかし、現実には高齢になると、人間誰れもが避けて通れぬ「老い」の問題が沢山あったり、病気やケガがから寝たきり状態になってしまい、介護を受けなけれぱならなくなる等といったことが日常的になってきます。

 ・ 人生いろいろ″と演歌でうたわれているように、人はまさに、さまざまな生き方をして生涯を終えています。私たちが、いつまでも健康で長生きするには、どういう生活が好ましいのでしょうか。

 ここでは、健康に暮らす人々の日常生活の一端を紹介しながら、・いきいき元気で80歳″のあり様を探ってみたいと思います。

 武田政江さん、78歳、ご主人と共に、とてもお元気です。

 その秘訣の一つは、食生活に注意していることです。ハチミツ、レモン、食酢で好みの味付けにした、特製わかめの酢のものを毎朝、食べています。

 そして、好物は小あじの空揚げや、骨までやわらかく煮た、小あじのつくだ煮です。特に、小あじの空揚げは、野菜あんをかけるとおいしく、栄養バランスのとれた良いおかずになっています。

 だし類は、必らず天然のものを使うようにして、添加物の多い加工食品などは控えるようにしています。ごはんは、長い間にわたって胚芽米を食べています。

 食事は常に、腹八分目を心がけています。

 政江さんがはつらつとしているもう一つの秘訣は、若い人たちと交流していることです。

 政江さんは、長年にわたって華道の先生をしてきました。生徒さんの数は減らしたものの、今も週1回若い人々にお花を教えています。

 政江さんにとって、このお花のおけいこ日は楽しい一日でもあります。若い人々との交わりは、この華道を通じての他、親交を通しての交流もあります。それは、自宅を開放して行っているバーベキューパーティーなど、積極的に楽しい集いをと、心を配っています。

 この他に、本は若い頃からよく読みます。今でも暇さえあれば、本を読んでいます。好奇心が旺盛なことも、読書につながっているようです。

 また、短歌もつくっています。十数人の仲間といっしょに先生に習っていて、8年前、自費で短歌集「匂ひすみれ」をだしています。

 食事に気を配り、若い人と交わり、趣味をたしなむ、といった日常生活を過している政江さんは、ますますお元気です。

 池谷 匡さん90歳。若い頃から農業に従事してきた池谷さんは、今もよく体を動かして暮しています。

 毎朝、門の前に出て、軍隊時代に覚えたという簡単な体操を10分問くらいですが、欠かしません。雨の日は、家の中て体操をしています。

 そして、週3日、仲間とゲートボールを楽しんでいます。

 はつらつとしていて、とても、90歳とは思えぬ若さです。この池谷さんは、今も自分の歯がそろっていて、食べものは何でもおいしく食べられます。

 盆栽は、若い頃からの趣味です。何十年もの長い間、手入れを続け、今では200鉢以上にもなっています。

 池谷さんは歩くことも欠かしません。家が小高い所に建っているので、外出の折りなど、ゆるい坂の上り下りもよい運動になりますし、

 晴れた日には、少し遠くまで散歩もします。しかし、ただ散歩するというのではなく、風景をながめながら、四季折り々々の移り変りを楽しむといったこともあります。

 そして、毎朝新聞をよく読み、毎日、日誌をつけています。ただ記録的につけるだけてはなく、反省や、明日への励みになるように書きとめているとのことです。

 「物は続けなきゃ、何にもなりません」とおっしゃる池谷さん。若い頃から毎日体操をする、歩く、などといった日常の小さな積み重ねを大切にして生きている池谷さんは、とてもお元気です。

 次に、高齢者のための水慣れ教室から、クラブに入って水泳を続けている健康な皆さんを紹介しましょう。

 泳げない人はこのように水の中で歩いたり、このように足をバタバタさせたりして、水に慣れてきます。

 6回の・水慣れ教室″が終っても、水に入る楽しさと、仲間との交流が持てる楽しさから、水泳を続けたいという希望者も多く、水泳クラブに入会して、泳ぎの練習をしています。
 
 クラブに入ってしばらくすると、はじめ泳げなかった人たちも、みんな上手に泳げるようになります。

 水泳クラブは、50歳~80歳くらいまでの年齢の人たちが寄り集まって泳いでいるので、
高齢の人たちにとっては、自分より若い人たちとも交流が持てるという利点もあります。

 この水泳を通じて、クラブの仲間と、一年に1~2回は、和気あいあいと旅行を楽しみ、趣味を同じくする人をみつけることができ、健康になると同時に、地域の友達の輪も広がり、以前に比べて楽しく充実した生活を送っています。

 ちょっと食生活に気を付ける、よく体を動かす、といったことから、さらに何か趣味を持って、充実した日々を送っています。いいかえれば、ごくあたりまえの健康法の基本を実行してこられて、いま、はつらつとしてお元気です。みなさんも、これらの人々に負けないよう、健康で充実した日々が送れるようにいたしましょう。

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秦の始皇帝が不老長寿の霊薬を探し求めたという伝説を持ち出すまでもなく、不老長寿は人類の歴史が始まって以来の夢だ。そして最近、老化のなぞに迫る新しい研究成果が次々と上がっている。不老長寿が果たして可能なのか、そしてそれがほんとうに人類にとって福音なのかどうかの議論は別にしても、だれもが少しでも長く健康な老後を送りたいと願っている。健康で豊かな老後を送るための生活習慣、食生活、心のあり方を探るとともに、最近の老化研究の動向などを紹介しよう。

世界一の日本人の平均寿命

 生物の寿命といっても、その定義は意外と難しい。屋久島には樹齢何千年もの杉の大木が茂るなど、環境がよければいくらでも長生きできる樹木に寿命はないとされる。また、細菌などのように分裂して増殖する生物は、分裂した時点で生まれ変わるともいえ、これも寿命はない。一方、われわれ哺乳動物は、どんなに生活環境を整えても、ある一定の年月以上は生きられない。ネズミは2、3年、犬は15年くらいで、人間はだいたい120年といわれる。
 紀元前の人間の平均寿命は15歳くらいだったといわれる。明治33年の日本人の男の平均寿命が38歳で、女が39歳だったと聞いて、その短さに驚く人も多いだろう。それが戦後瞬く間に長寿国の仲間入りを果たし、そして世界一となった。平成10年の日本人の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は、男で77.16歳で、女が84.01歳。日本人の平均寿命がこれだけ延びた理由は、国民の栄養状態がよくなったことと、伝染病対策や地域の健康診断など社会の保健・衛生状態がよくなったこと、そして医療が進歩したことだ。しかし豊かになったことで逆に現在、過食や運動不足などで多くの人が生活習慣病を抱え、この世界一の長寿命国の地位を危うくしているというのは、なんとも皮肉である。

複雑な老化のメカニズム

 寿命が近づくにつれて人間は、血管が硬くなり(動脈硬化)、骨がもろくなり(骨粗しょう症)、眼の水晶体が濁り(白内障)、頭の働きがにぶくなる(老人性痴ほう)。これが老化である。どうして生体に老化が起きるのかという問題は、今でも生物学の最大のなぞの1つである。それでも最近、少しずつその手がかりがつかめてきている。
 老化をコントロールしている物質として、最近注目を集めているのがテロメアだ。人の細胞には48種類の染色体があるが、その染色体それぞれの末端にある組織がテロメアで、これが生命の設計図であるDNA分子の安定化をはかっている。細胞が分裂するごとにこのテロメアが短くなり、ある程度短くなると細胞は分裂しなくなり、そして死ぬ。あたかもテロメアという死のタイマーが、寿命をきざむように短くなっていくのだ。しかし、短くなる一方で、短くなったテロメアを修復する酵素もある。これがテロメラーゼだ。しかし生殖細胞とがん細胞ではテロメラーゼが働いているが、普通の体細胞ではテロメラーゼは働いていない。からだは老化するが、生殖細胞とがん細胞は老化しないということだ。そこで最近、この酵素を活性化させて長寿を実現できないかと世界中で研究が進められている。平成10年1月には、米国の研究者が通常70回しか分裂しないヒトの皮膚の細胞にテロメラーゼを与えたところ、寿命が延びて90回以上分裂したと発表し、話題になった。
 強い酸化作用があるフリーラジカルや活性酸素が組織や遺伝子に障害を与え、その障害が積み重なって老化が進むという考えも注目を集めている。人間が生きていくために欠かせない酸素が、実は老化の原因だというのだ。事実、ネズミよりイヌ、イヌよりヒトといった具合に、体重あたりの酸素消費量が多い生物ほど寿命が短い。活性酸素は脂質を過酸化脂質に変えて動脈硬化を引き起こすし、紫外線は皮膚がんを引き起こす。もちろん人間の体内には、フリーラジカルや活性酸素を無毒化する抗酸化物質があるし、食品の中のビタミンCやEなどにも抗酸化作用がある。このため、これらのビタミンを含む緑黄色野菜を多くとることが長生きの秘訣とされる。
 そのほかにも老化のメカニズムを説明する理論は山ほどある。いずれにせよ哺乳動物の老化のメカニズムはたいへん複雑で、現実にはそれらの多くのメカニズムが複雑にからまって老化が起きているようだ。


進む長寿研究

 11年7月、米国カリフォルニア大学のマイケル・ローズ博士らが、ショウジョウバエを使って、寿命に関係する遺伝子を活性化させることで、通常のハエの寿命の3倍に相当する130日間生かすことに成功したと発表した。この遺伝子は細胞の損傷を修復する能力があり、老化防止の治療薬の開発につながるのではないかと注目されている。そしてその二か月後の9月、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、神経成長因子を作る遺伝子を組み込んだ皮膚の細胞をアカゲザルの脳に移植したところ、老化で萎縮していた脳細胞が若返ったという研究成果を発表した。記憶力など脳の機能の回復についてはまだ明らかにされていないが、アルツハイマー病などの治療に応用できるのではないか、ということで同研究チームはさらに臨床試験を計画しているという。
 このように老化研究に熱心な米国は、若さに大きな価値を置く文化の国でもある。そのため、米国では若さを取り戻そうとホルモン療法が注目を集めている。そこで使われているのが、エストロゲン(卵胞ホルモン)やHGH(ヒト成長ホルモン)、メラトニン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)などだ。HGHは成長期には欠かせないホルモンで、骨粗しょう症の時には骨の密度を増し、心肺機能を回復させたり、免疫機能を回復させたりする。メラトニンは睡眠の調節や精神的な安定、免疫系の強化などに関与している。DHEAは性的能力や記憶力を改善、若さを保つといわれている。

長生きはウオーキングから

  平成11年10月、東京の東条会館で日本人類学会大会のサテライトシンポジウム「豊かな老後:歩くこと動くことから」が開かれた。450万年も昔、人類の祖先の猿人が直立2本歩行を始め、手を自由にあやつれるようになり、脳が急速な進化を遂げた。会場では、毎日歩くことが人間にとっていかに大切であるか、さまざまな立場から繰り返し強調された。東京都立大学からは、からだを動かさないと骨がもろくなるというラットの実験結果が紹介され、東京都老人総合研究所からは、ウオーキングが長寿につながるという研究発表があった。ウオーキングは心肺機能を高め、肥満を防止し、高脂血症などの生活習慣病を予防するだけでなく、運動機能を高めて転倒で骨折して寝たきりになるのを防止するのだ。

バランスのよい食事と禁煙

 平成10年10月、(財)長寿科学振興財団があいち健康の森で「国際長寿科学シンポジウム」を開催した。そのなかで、東京都老人医療センターから、長寿のための食事ということで動脈硬化予防などの観点から、次のような7つのポイントが提案された。1、脂肪を取り過ぎない。動物性脂肪より植物性の油を多めに。2、塩分を控える。3、緑黄色野菜を十分に取る。4、豆類や魚介類などのたんぱく質も十分に取る。5、多様な食品でバランスのとれた食事にする。主食、主菜、副菜をそろえて。6、お茶を飲む。7、心の触れあう楽しい食生活をこころがける。どれもこれもどこかで聞いたような指摘ばかりかもしれないが、7番目の「楽しい食事」はけっこう忘れがちだが、大切なポイントだろう。
 さらに同シンポジウムでは、鹿児島大学医学部の秋葉澄伯教授が喫煙と寿命の関係について講演。たばこが肺がん、喉頭がんなど各種がんや心筋梗塞などの循環器疾患を引き起こすとしたうえで、「男女の平均寿命の差は6・5年あるが、もし喫煙の影響を取り除くことができれば、2年くらい長くなり、男女差は4年くらいに縮まる」と指摘した。

沖縄に学ぶ

 日本は世界一の長寿国である。その日本でも沖縄県が長寿県であることは世界的に有名だ。多くの研究者が長寿の理由として指摘する特徴がいくつかある。食生活では、塩分が少なく、ニガウリやヘチマなどの緑黄色野菜をよく食べる、沖縄豆腐、豚肉、海藻など豊かなたんぱく質とミネラルを摂取しているなどだ。これは、先の東京都老人医療センターの7つのポイントと相通じる。
 もちろん、沖縄の温暖な気候とあまりものにこだわらない気質も、大きな要因である。ものにこだわらないということは、別の言い方をすれば精神的なストレスを感じないということである。ストレスは体内に活性酸素を増やすので、老化を促進する原因となる。また、東京のお年寄りに比べてよく散歩をしている、睡眠障害を訴える人が少ないという研究データもある。さらに、沖縄にはお年寄りを大切にすると同時に、お年寄りが生き甲斐を持って活躍できる風土、文化があるということも、長寿の理由として忘れてはならない大切なことである。
 琉球大学が100歳以上のお年寄りに長生きの秘訣を聞いた調査結果がある。そこでは確かに、「何でも食べる」「気楽に生きる」「よく働く」がトップを占めていた。しかし、回答の8割が「不明」だったことは何とも示唆的である。長寿者は日ごろ、「健康のためにあれを食べよう」「運動をしよう」などと考えてはいないのである。いくら健康にいいと言われても、嫌いな食物を無理やり食べたり、いやいや運動していては逆効果なのだ。

最後に、中高年のために

 われわれが健康で楽しい長寿を送るために、中高年は今から何に注意すればよいのか。食生活に関しては、カロリーを取り過ぎないこと、抗酸化物質を多く含む緑黄色野菜やお茶を取ることなどに加えて、東京都老人総合研究所の柴田博副所長は「日本人は1日平均、肉を80グラム、魚を97グラムと、ほぼ1対1の割合で食べている。しかし、歳を取ると肉を食べなくなる傾向があるが、肉をしっかり食べることが大切」と指摘する。その理由として、肉は食品としてアミノ酸のバランスがよいこと、吸収しやすい形で鉄分が多いこと、酸化されにくい一価の不飽和脂肪酸が多いこと、さらに肉を食べないとぼけやすい、がんになりやすいことなどを挙げている。
 言うまでもなく、毎日の運動も大切だ。柴田副所長は「布団の上げ下ろしや雑巾掛けなど、日常の生活の中でからだを動かすことが大切です。永続性があるし、あらゆる筋肉を使うことになるからです。さらに、肥満などすでに生活習慣病が気になる人は、ウオーキングなどうっすら汗をかく運動を1日20分くらいした方がいい」という。「でも月に1回のゴルフがまるで無駄というのではありません。ゴルフをするとなれば、日ごろ練習をしたり、夜遊びを控えたりとその人の日常生活が変わる。生活のリズムを変えるという意味では有効です」という。
 そして「人のために何か社会的な活動をすることも大切です。自分のためだけの趣味に打ち込むより、ボランティアや相互扶助など人のために活動している人の方が、免疫力もQOL(生活の質)も高く、そして長寿になるのです」と、中高年にアドバイスをしている。

「健やかに老いる」ために
~百歳長寿者との面接調査で分かったこと~

 毎年9月に厚生省が国内の満100歳以上の長寿者の名簿を発表している。(財)健康・体力づくり事業財団はこの名簿をもとに長寿者と面接調査を行い、「健やかに老いる」ための生活習慣、食生活、福祉や介護のあり方などを探っている。この調査研究を担当している同財団の上村美智留研究員と岩渕久美研究員の2人に、これまでの調査で分かったことや感じたことなどを聞いた。
 長寿者の調査に関しては、昭和56年度に「長寿者保健栄養調査」という名前で全国の対象者1,018人中1,009人について面接を実施、平成5年の「長寿者保健福祉調査」では、3,070人中2,851人の面接を行った。現在進めている11年度の調査では、対象者が11,346人もおり、うち半分の面接調査を計画している。
 2人に、これまでの調査を簡単に紹介してもらった。平成5年度の調査結果では、長寿者の父親は70歳代で亡くなっているケースが一番多く、母親は80歳代が一番多かった。彼らが江戸時代末期から明治初期にかけての生まれで、当時の平均寿命が20歳くらいだったことを考えると、長寿者の両親もまた長寿なのだ。職業別では男女とも農業・林業が多く、全体で42%。もともとたばこを吸わない人は80%で、もともと酒を飲まない人も73%。運動に関しては、70~80歳のころ散歩や畑仕事、体操など毎日していた人が43%で、中でも散歩が一番多かった。中年以降の食事で心がけていることは、毎日3回規則正しく食事をする、腹八分、緑黄色野菜や魚・肉・卵などを食べる、という回答が目立った。「長寿の秘訣は何か」との質問には、男女とも物事にこだわらないがトップで15%、腹八分や規則正しい生活、マイペースなどが続いた。
 多くの長寿者に面接をすると、アンケート結果からは分からないことが見えてくる。岩渕さんは「自分のことは自分でやる自立心の旺盛な人、好奇心の強い人が多い。また、異性に関心を持っている人も多かったですね」と印象を語る。上村さんも「加齢とともに運動能力は衰えますが、衰えたら衰えたなりにできることに挑戦する力がある人が多いですね」という。
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高齢期で重要なこと

「高齢期において重要なことは何だと思うか」についてみると、「健康であること」が71.9%と最も高く、次いで「子どもなどとの家族関係をよくすること」46.9%、「良好な夫婦関係を保つこと」38.7%、「趣味をもつこと」34.5%、「隣人との関係をよくすること」22.3%、「経済的に安定していること」20.1%と続いている。

都市規模別にみると、都市規模が小さくなるほど「子どもなどとの家族関係をよくすること」の割合が高くなっている(大都市:39.1%、中都市:46.3%、小都市:47.8%、町村:51.7%)。

性別にみると、「健康であること」(女性:75.8%、男性:66.9%)、「子どもなどとの家族関係をよくすること」(女性:50.9%、男性:41.7%)、「隣人との関係をよくすること」(女性:26.0%、男性:17.7%)などでは女性の割合が男性の割合を上回っている。一方、男性の割合が女性の割合を上回っている項目は「良好な夫婦関係を保つこと」(男性:53.0%、女性:27.5%)、「仕事をもつこと」(男性:17.5%、女性:10.3%)などとなっており、特に「良好な夫婦関係を保つこと」の男女差が大きく現れている。

年齢階級別にみると、「健康であること」は全ての年齢階級において他の項目に比べ高い割合となっており、「80歳以上」が80.4%と最も高い割合となっている。また、「良好な夫婦関係を保つこと」は、年齢が高くなるに従い下降している。

今後持ちたい、又は今後とも持ち続けたい

次に「今後持ちたい、又は今後とも持ち続けたいと思っている趣味は何か」についてみると、何らかの持ちたい趣味を答えた人は82.0%となっている。趣味の内訳をみると、現在の趣味でも最も高い割合である「園芸、庭いじり」がは30.5%と最も高くなっている。以下は「旅行、ドライブ」(26.6%)、「テレビをみる」(21.0%)、「散歩」(18.3%)、「絵画、音楽、俳句、書道、写真、陶芸などの創作活動」(16.6%)、「手芸、茶道、華道、踊り」(16.0%)。「スポーツをする(登山、ハイキングなどを含む)」(12.9%)、「読書」(12.5%)、「カラオケ」(9.9%)などが続いている。

なお、これらの趣味を上述の「現在の趣味」と比較すると、多くの項目において割合が低くなっている。特に「テレビをみる」(現在:31.4%、今後:21.0%)が低くなっているのが著しい。

しかし、「絵画、音楽、俳句、書道、写真、陶芸などの創作活動」(現在:15.9%、今後:16.6%)、「学習活動」(現在:3.0%、今後:4.6%)、「ワープロ」(現在:2.4%、今後:3.3%)、パソコン(現在:1.1%、今後:2.2%)については、「現在の趣味」に比べ割合が高くなっている。

生きがいを感じる時

生きがいについて、「十分感じている」か「多少感じている」と答えた人に、「生きがいを感じるのは、どのような時か」についてみると、「孫など家族との団らんの時」が44.1%で最も高く、「趣味やスポーツに熱中している時」(33.5%)、「仕事に打ち込んでいる時」(31.8%)、「旅行に行っている時」(30.7%)が3割台で続き、以下は「テレビを見たり、ラジオを聞いている時」(29.4%)、「友人や知人と食事、雑談している時」(28.5%)、「夫婦団らんの時」(26.0%)と続いている。

性別にみると、「仕事に打ち込んでいる時」(男性:41.5%、女牲:24.3%)、「夫婦団らんの時」(男性:30.7%、女性:22.3%)などは男性の割合がそれぞれ17.2ポイント、8.4ポイント高くなっている。一方「孫など家族との団らんの時」(男性:37.5%、女性:49.0%)、「友人や知人と食事、雑談している時」(男性:20.3%、女性:34.8%)、「テレビを見たり、ラジオを聞いている時」(男性:25.9%、女性:32.0%)などは女性の割合がそれぞれ11.5ポイント、14.5ポイント、6.1ポイント高くなっている。

年齢階級別にみると、「仕事に打ち込んでいる時」は「60~64歳」で40.4%と最も高く、年齢の増加とともに下降している。「テレビを見たり、ラジオを聞いている時」は「60~64歳」が24.7%と最も低く、年齢の増加とともに上昇する傾向がみられる。

現在の心配ごとや悩みごと

「現在、心配ごとや悩みごとがあるか」についてみると、何らかの心配ごとや悩みごとを答えた人は43.3%となっている。心配ごとや悩みごとの内訳をみると、「自分や配偶者の健康のこと」(24.4%)がほぼ4人に1人と最も高い割合となっている。以下は大きく離れて「配偶者に先立たれた後の生活のこと」(8.3%)、「生活費など経済的なこと」(7.7%)、「一人暮らしになること」(6.6%)、「病気などのとき、面倒をみてくれる人がいないこと」(6.l%)、「孤独になること」(5.5%)と続いている。

性別にみると、「配偶者に先立たれた後の生活のこと」は男性(11.5%)が女性(5.8%)に比べ5.7ポイント高く、「病気などのとき、面倒をみてくれる人がいないこと」では女性(8.1%)が男性(3.6%)を4.5ポイント上回っている。

現在の健康状態別にみると、「心配ごとはない」は、健康状態が良いほど高い割合となっている。

高齢者の恋愛や結婚について

「高齢者の恋愛や結婚についてどう思うか」についてみると、「良いことだと思う」は45.3%で、「あまり良いことだとは思わない」(10.5%)を大きく上回っている。また、「どちらともいえない」は33.8%と3人に1人の割合となっており、「わからない」は10.3%となっている。

性別にみると、「良いことだと思う」(男性:50.2%、女性41.5%)は男性8.7ポイント高く、「どちらともいえない」(男性:30.8%、女性36.1%)は女性が5.3ポイント高い割合となっている。

年齢階級別にみると、「良いことだと思う」は年齢が高いほど低くなっており、「60~64歳」では52.l%と5割を超えているが、「80歳以上」では28.0%となっている。一方、「あまり良いことだとは思わない」は年齢の増加とともに上昇する傾向がみられる。

配偶者の有無別にみると、「良いことだと思う」は配偶者が「いる」(48.2%)が「いない」〈37.3%)を10.9ポイント上回っている。

職業の有無別にみると、「良いことだと思う」は「有職」(52.5%)が「無職」(41.3%)を11.2ポイント上回っている。

子どもの有無別にみると、「良いことだと思う」は子どもが「いない」(52.8%)が「いる」(44.8%)を8.0ポイント上回っている。

生きがいを感している人と感じていない人別にみると、「良いことだと思う」は『感じている』(49.6%)が『感じていない』(31.5%)を18.1ポイント上回っている。

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高齢化社会の出現を目の前にした今日、改めて高齢者の健康・体力問題がクローズアップされている。その時、先づ必要なことは高齢者の体力特性をしっかり把握することであろう。

1.はじめに

 近年、我々の日常生活に於ける生活環境の改善は高齢化社会を生み出しつつある。全国の65歳以上の高齢者は今年中に1800万人に達し、人口に占める割合も14.5%を越す。昨年厚生省が介護を要する高齢者数を集計したところ100万人に達した。他に生活上の援助が必要な高齢者が100万人あり、合わせて200万人。この数は2000年には280万人、2025年には520万人に達すると見ている。家族の数も減り、家族による介護は限界に来ている。大都市周辺では高齢者が施設に入るのに2~3年待ちの状態が続いている。
 年齢を重ねること(加齢)は、筋肉や神経など身体を構成する諸器官の発揮機能の低下を引き起こす。また、適切な身体運動がなければ筋・骨格系、呼吸循環系、神経系などの器官・組織は退化する。一般に加齢にともない身体運動は減少する傾向にあるので、身体の各器官や組織は加齢とともに運動不足の影響が加わり加速度的にその機能を低下させることになる。このことは、高齢者にとって健康的な日常生活を実施するためには身体運動の実施が必要不可欠であることを意味する。

2.体力のある人は健康か

 高齢者の体力を考える場合には、健康との関係が特に重要になる。体力とは身体の活動水準の高低を指す場合が多い。健康とは単に病弱ではないというだけではなく肉体的、精神的、社会的に良好な状態である(WHOの定義)。体力は計測が可能である一方健康は定量化するための適当な指標がない。図1は健康と体力との関係を示したものである。個々では体力的に優れていても病気がちな人も見かけられるが、全体的には体力のある人は健康的であると言える。
 加齢とともに日常生活に於ける身体を動かす機会が少なくなり運動量が減少し、いわゆる運動不足症になりやすい。運動不足は筋・骨格系、呼吸循環系、神経系の機能低下を引き起こす。筋・骨格系能力とは腰や膝を曲げたり伸ばしたりする力やパワー及びその持続能力を指す。呼吸循環器系能力とは、歩いたり走ったりしてもあまり疲れない能力のことであり、心臓及び肺臓あるいは血管などの組織の機能を指す。神経系は、筋・骨格系や呼吸循環系の働きをコントロールする役割を果たす。これらの各系の機能がバランス良く働くことなくては健康的な日常生活は保証されない。

3.体力とは何か

 一般に言われている「体力」とはパワーやスタミナ等、身体が発揮することが出来るエネルギー出力量およびそれをコントロールする神経機能を指す場合が多い。
 身体運動によるエネルギー出力量は、一気に階段を駆け上がったり、ジャンプしたり、重いものを持ち上げたりするために必要な能力(これを無酸素的能力という)及び、長時間の歩行やジョギングを遂行する能力に代表されるように、スタミナを表す能力(有酸素的能力)である。
 これらのエネルギー出力量は神経系の機能(巧みさ、スキルとも呼ばれる)によりコントロールされる。たとえば、パワーがあり、スタミナのある人でも筋を効果的に働かすための神経系の機能が十分でなければ「歩く」、「階段を上がる」等の身体運動を効果的に実施することは出来ない。
 つまり、身体運動で発揮される各能力は、呼吸循環系、筋骨格系、及び神経系が中心となり発揮される機能により構成されている。

1)呼吸循環系能力(スタミナ)
 ジョギングやウォーキング等の身体全体を使う運動が長時間持続するためには、活動している筋肉まで酸素が十分に供給されなければらない。この為には肺を中心とする呼吸器官の働きにより体力に充分に酸素を取り込み、心臓を中心とする循環器の働きにより筋まで酸素が供給され続けなければならない。この能力は最大酸素摂取量(体内に取り込むことが出来る最大の酸素量、通常1分間当たりの値を用いる)を測定すれば正確に把握することが出来る。最大酸素摂取量は加齢とともに減少するが、一方で、運動を定期的に実施することにより増加し、不活動で減少する。最大酸素摂取量はいろいろな方法で測定されるが、最も一般的な方法としては、軽い負荷での運動時の心拍数から推定する方法である。他に、フィールドテストとしては一定時間あるいは一定距離を走ったり/歩行したりすることにより推定する方法も良く利用されている。
 最大酸素摂取量が大きな人は長時間の運動に優れた能力を発揮でき、疲れにくいスタミナがあることを表す。このことは、単に長距離走のタイムが良いとか、スポーツの成績が優れている等にとどまらず、大切なことは、日常生活での様々な身体活動においても疲れにくい等の優れた能力を発揮することが出来ることを意味する。このことからも、呼吸循環系能力は体力の各要素の中でも健康と最も関係が深い能力と言える。一定以上の最大酸素摂取量は健康的な生活を維持するために必要条件であろう。

2)筋・骨格系能力
(1)筋、パワー
 この能力は、関節を介して筋が発揮することが出来る力、速度、パワー等で表すことが出来る。つまり、重いものを持ち上げる、素早く動く、高くジャンプする、速く走る等、日常生活に於ける比較的短時間に筋肉を使うような動作で発揮される能力である。この能力は、握力や背筋力などのように関節を介して発揮される力の大小を測定する方法とか、腕立て伏せや上体起こし等のように一定の力を発揮できなくなるまでの回数や時間を測定する方法などにより測定される。前者は筋の太さにより決定され、後者は筋肉を流れる血液量により決定される。つまり、筋が太く血流量が多い筋は力と持久力があると言うことになる。
 これらの能力は、健康と関係が深い。多くの腰痛患者を調べると、姿勢保持に関係の深い筋力が極端に低下していることが分かる。さらに、その人たちに筋力を高める運動を処方した結果、腰痛が減少したことが報告されている。
(2)関節の可動範囲(柔軟性)
 身体は、肘、膝、脊髄など数多くの関節により出来上がっている。これら関節の可動範囲が広い人はケガや障害も少なく、優れた運動能力を発揮することが出来る場合が多い。この機能は柔軟性とも言われる。柔軟性は関節をとりまく腱や靱帯あるいは拮抗筋(曲げるときには伸展筋、伸ばすときには屈曲筋)が如何に弾力性に富んでいるかにより決まる。柔軟性に欠けると、姿勢が悪くなる、その結果としての内臓疾患や腰痛などの弊害を引き起こす。

3)神経系能力(巧みさ)
 人の動作は筋の収縮が神経の支配を受けて成り立つ。優れた機能を有する筋肉もその収縮が巧くコントロールされなければ目的とする動作は成立しない。神経系の機能は全身反応時間の測定など反応時間や、反射時間を計測することにより推定できる。

4.身体組成(身体のなかみ)は運動と栄養のバランスを表す

 身体を構成する組織の比率(身体組成)も体力を考える上で欠かすことが出来ない要因である。人の健康の度合いをとらえる場合、食事と運動とのバランス、すなわち、身体内部に出入りするエネルギー需給バランスが非常に重要な意味をもつ。エネルギーの入力過剰は身体内部の脂肪の蓄積を意味する。現代社会では十分な食事がエネルギー入力量を増加させ、一方で、機械化社会が運動の機会を減少させエネルギー出力量の減少を引き起こし、結果的に、運動不足-脂肪蓄積-肥満-成人病の非健康的パターンを招来する。肥満の程度が増すにつれ、虚血性心疾患や高血圧性心疾患などの心臓病の罹患率が増大することが報告されている。

 一般に肥満とは体重の中で脂肪の占める比率(体脂肪率)が一定以上を越えた場合を言う。普通、肥満とは体脂肪率が20%(男)及び30%(女)以上を指す場合が多い。肥満を判定する方法には、水中体重秤量法、インピーダンス法、カリウム法、近赤外線法、超音波法、キャリパー法などがある。これらの方法はいずれも専門的な装置と知識を備えていなければ正確な測定が出来ない。そこで、誰でもどこでも簡単に測定が出来る方法として、一般的には身長と体重とから肥満度を算出する場合が多い。その場合、体重が普通より(標準体重)重い場合でも(多くのスポーツ選手のように)脂肪以外の組織(筋、骨など)が発達している場合も含まれるので注意を要する。その他の簡単な肥満判定法として腹囲/腰囲比/(W/H比)が用いられる場合も多い。体脂肪率とW/H比あるいは腹囲との間には高い有意な相関関係が認められているので、家庭で簡単に肥満度を見るには腹部の周径囲を計測することが効果的であろう。
 運動しない代わりに食事量も少なくしてエネルギー入出力バランスを保つ工夫も考えられ、多くの減量ダイエットもこの方式がとられる場合が多い。その時、運動を実施しない(すなわち筋を収縮させない)ことが筋の萎縮を引き起こし、肥満にならないけれども、結果的に活動水準を下げることになり、病気に対する抵抗力をも失うことにつながる。筋・骨格系、呼吸循環系は運動を実施することによりのみ発達することを忘れてはならない。本来、人間の身体は普通の食事と充分な運動量が確保されていれば肥満にはならないように出来ているわけである。

5.加齢により体力は低下する

1)呼吸循環系能力
呼吸循環系能力を最も客観的に見る指標として最大酸素摂取量がある。この加齢変化を男性について見ると(図4)、30歳代では40ミリリットル/体重/分であったのが加齢とともにほぼ直線的に減少し、60歳代では20ミリリットル/体重/分となる。女性は男性の約70%を示し、加齢変化は男性とほぼ同じである。最大酸素摂取量は生体内に最大限どの程度の酸素を供給できるかの能力を見るものであり、この値が高い人はスタミナがあることを意味する。従って、一般的には全身のスタミナは60歳代には既に30歳代の約半分になると考えられる。


2)筋・骨格系能力
(1)関節トルク(筋力)
 この能力を一般的に表すものとして文部省が定期的に実施している体力テストの結果が参考になる。握力、背筋力、垂直跳びはいずれの値も加齢に伴いほぼ直線的に減少する傾向を示し、60歳代では20~30歳代の70%(握力)、60%(背筋力)及び50%(垂直跳び)となる。このことは、腕の筋力は体幹あるいは下肢の筋力に比較して老化が激しいことを示しているのかもしれない。そこで、これらの現象をより明確にするために、上下肢の筋力及び筋厚を測定し、加齢変化を見た。その結果、腕の筋力(腕屈曲力)に比較して、脚の筋力(膝伸展力)は加齢にともなう減少が大きい傾向が見られた。そこで、腕及び脚を構成する筋量を超音波を用いて測定した。腕に比較して脚筋の加齢減少が著しいことが明らかとなった。
 ところで、筋は筋線維の集合体である。筋線維には力が強くスピードの速い速筋線維とスタミナのある遅筋線維とがある。ゆっくりした動作や弱い力を発揮するときには主として遅筋線維により行われ、強い力や速い動作は速筋線維により行われる。身体の各筋は両筋線維が混在しているが、加齢に伴い、速筋線維がより萎縮(細くなる)しやすい。このことは、高齢者は速い動きや強い力を発揮することが不得意であることにつながる。この老化を防ぐには、速筋線維の加齢による萎縮を少なくするような運動を実施することが必要である。つまり、ジョギングやウォーキング等ゆっくりした運動を長時間行うことにより遅筋線維と呼吸循環系を鍛えるとともに、その運動の中に少し強めの運動を加味して(数分以内の僅かな時間でよい)、速筋線維を鍛えるような工夫が必要であろう。


(2)関節可動範囲(柔軟性)
 柔軟性を見る代表的なテストとして体前屈がある。文部省による体力テストでの立位体前屈及び上体そらしの加齢変化を見ると、加齢とともにいずれも急激に減少する傾向を示し、柔軟性が少なくなる傾向が見られる。これを予防するには筋や腱を伸張させるストレッチングが非常に効果的である。
3)神経系能力
 加齢とともに神経系の機能も低下する。反応時間は神経系の働きを見る良い指標である。単純反応時間は20歳代を頂点として次第に延長していく。すなわち、外界の変化に対する反応が次第に悪くなることを示している。

4)身体組成
(1)歳をとると太るか?
 歳をとると体脂肪率はどのように変化するのであろうか?これまでの研究によると、体脂肪率は加齢とともに増加するようである。
 皮下脂肪厚を見ると部位により傾向が異なる。男女ともに他の部位に比較して腹部の皮下脂肪が最も厚い傾向を示し、その値は50歳あたりで最大を示し、その後、加齢とともに減少傾向が見られる。他の部位については顕著な加齢変化は見られない。

(2)筋肉は年とともに細くなる
 ところで、筋について見るといずれの部位においても、男女ともに、加齢とともに急激な筋厚の減少が見られる。更に、その加齢変化は筋により異なるようである。男女ともに最も加齢減少が著しいのは脚の筋、特に大腿前面の筋(大腿直筋と中間広筋)であり、70歳代は若者の約56%となる。つまり、加齢とともに脚の筋は急激に減少し、70歳を過ぎると30歳時の約半分の筋量になると考えられる。男女で比較すると、いずれの部位においても男性の方が加齢に伴う筋の減少が著しい。
 興味あることに、身体の前面と後面とに付着する各筋群の厚さの加齢減少を比較すると、上腕では後面が、体幹及び脚では前面の筋の減少が著しい。これを、それぞれの筋の役割との関係で考えると面白いことが考えられる。上腕の前面の筋は肘屈曲に働き、後面の筋は肘伸展に働く。立位姿勢の場合、肘屈曲は重力に逆らい行われ、伸展に比較して強い筋力発揮を強いられる。日常生活での動作を見ると、物を持ち上げたり、移動したりする動作は数多く行われ、その為には肘屈曲動作が多く使われる。一方、肘伸展動作は重力に抗しないので特に力を必要としないでも実施される場合が多い。このように考えると、肘屈曲動の主動筋である上腕前面の筋(上腕二頭筋)が力を発揮する機会が多く、一方、後面の筋(上腕三頭筋)は力を発揮する機会の少ないことが、加齢に伴う筋萎縮を著しくしたものと考えられる。同様なことは、体幹及び脚の筋についても考えられる。体幹前面(腹筋)及び脚前面(大腿四頭筋)の筋は何れも体幹前屈あるいは股関節屈曲の主動筋であり、立ち上がる、起きあがる、歩く等日常生活に欠かすことの出来ない基本的な動作を構成する主要筋群である。加齢に伴いこれらの筋群の量が減少したことは、これらの動作が加齢とともに少なくなってきたことを意味しているのかもしれない。このことは運動量が加齢とともに少なくなることを意味すると考えられる。


6.身体不活動(ベッド安静)状態は筋機能は著しく低下させる。

 運動実践とは対局的な意味をもつ、実験的に身体不活動を規定したベッド安静による筋の機能面の変化を紹介する。健康な成人男女10名について20日間のベッド安静を遂行した。図10に示すようにベッド安静によりパワーが減少する傾向が見られたが、その減少傾向には部位による差が見られた。肘の屈曲および伸展に比較して、膝の伸展及び屈曲の減少が著しい傾向が見られた。3週間のベッド安静で最もパワーの減少が見られたのは膝伸展であり30~40%も低下した。かつ、ベッド安静終了後普通の日常生活に戻した後の1ヵ月後には上肢のパワーはほぼ正常値に戻っているが、下肢のパワーは依然として低い値を示したままであることは注目しなければならない。
 この研究は20歳代の若者(大学生)を対象としたものであるが、高齢者の場合にはさらにより大きな筋機能低下が引き起こされるものと考えられる。


7.おわりに-中高齢者でも体力レベルは運動により高まる

1)運動を定期的に実施している人の筋・骨格系機能は高い
 適切な身体運動の実施により筋・骨格系の機能は発達する。しかし、その運動による効果は年齢により異なる。青年期に比較して高齢期には効果が充分に見られるものであろうか?これらの疑問に答えるために、40歳以降70歳代までの男性を対象にスポーツクラブ等で日頃定期的な運動を実施している人達(運動群75名)と、特別な身体運動を実施していない人達(コントロール群47名)について筋・骨格系機能を調査した(図11)。その結果、肘屈曲パワーでは運動群とコントロール群との間には各年齢とともに殆んど差がみられなかった。しかし、脚伸展パワーでは高年齢になるほど運動群が高い値を示した。前述の下肢の筋群の老化が著しいことを考えると、この資料は定期的な身体運動が特に下段の筋機能低下を防ぐのに効果的であることを示すものとして興味深い。
 更に、日常に生活においては、起きあがる、立ち上がる、歩く等の動作は健康的で活動的な生活をエンジョイする上でも欠かすことの出来ない代表的動作である。椅子から立ち上がる動作を如何に敏捷に出来るかは日常生活を営む上で基本的に重要な人間の動きの能力と考えられる。そこで、椅子から立ち上がり-座る、一連の動作を繰り返すことが出来る時間(10回繰り返すに要した時間)を測定してみた。その結果を見ると(図11)、40歳代では両群ともに同じ時間(10秒)であり、コントロール群では明らかに加齢とともに時間が長くなる傾向を示した(50歳代では13秒、60歳代では16秒)。一方、運動群では50歳代、60歳代ともに11秒で加齢変化は殆ど見られなかった。立ち上がり動作は主として大腿伸展筋により行われることから、前述の脚伸展パワーの運動群の優位性と同じく、下肢筋を主動筋とする動作の老化防止に定期的な身体運動の重要性が示されているものと考えられる。
 以上、脚筋パワー及び立ち上がり能力に見られた運動群の優位性は、日常生活に於ける身体運動が筋骨格系機能の改善に効果的であることを如実に示すものである。特に、立ち上がり動作等の日常生活に直結する動作の能力に非常に効果的であることは、活動的な生活を保証するものとして注目されよう。
2)高齢者でも定期的な身体運動により筋機能の向上が見られる
 中高年齢者が定期的に一年間の運動実践を行った時に筋・骨格系機能はどのように変化するだろうか?茨城県の東南部に位置する人口約1万1,000人の村で、殆どが兼業農家を営み、習慣的なスポーツ等の身体運動の経験のない人たち(118名)が定期的にプログラムされた身体運動を実施した。運動の内容は水泳、筋力トレーニング、エアロビック体操などであった。その結果、膝関節伸展動作においては3種類の負荷条件ともパワー発揮に統計的に有意な増加が認められた。力と速度からパワー向上のトレーニング効果について考察してみると、軽い負荷でのパワー発揮においては速度の有意な増加が、一方、重い負荷での同条件においては力発揮の有意な増加がパワーの向上に影響を及ぼしていることが示された。つまり、中高年齢者といえども定期的に運動を実践することにより、動作スピードと動作筋力の両面が改善されたと解釈することができる。

おわりに

 高年齢になるに伴い筋骨格系機能が低下することは生物学的特性として致し方のないことであるが、その能力は日常生活習慣や環境条件などにより強く影響されると考えられる。前述のように加齢と運動不足の相乗効果が急激な筋骨格系機能の低下を導く。加齢変化は人為的に変えられようもないが、その変化に身体運動は見事に影響を与える主要条件である。身体を構成する器官や組織の形態と機能に対する加齢変化を的確に把握し、自分の生活習慣にフィードバックすることが出来るかどうかは、まさしく各自の知性と教養によるものであろう。


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痴ほうは、60歳代後半から年齢を重ねるとともに増加し、85歳を超えると5人に一人がなるといわれています。社会の高齢化が進むにしたがって、日本の痴ほう患者の数もどんどん増えています。人間いつかは死にますが、痴ほうで最期を迎えることは、できれば避けたいものです。壊れてしまった脳神経細胞を復活させることは難しいでしょうが、老年神経病学の研究と臨床に詳しい、小川紀雄岡山大学医学部教授は「最近の痴ほうに関する研究や新薬の開発などで、症状を改善したり、発症を予防したり、病気の進行を抑えたりすることに期待が持てるようになりつつあります」と指摘しています。痴ほう研究の新しい成果などを紹介して、痴ほう予防のヒントを考えてみました。

1. 良性健忘と悪性健忘は違う

 中年を過ぎると、「ええと、あの背の高い、少し髪の薄い、あいつ何て言ったっけなあ」と知人の名前を「ど忘れ」してしまうことがよく起きます。「夕食時のビールがないなあ」と、近くのコンビニに行って、面白そうな週刊誌が目に留まって週刊誌を購入、肝心のビールは買わずに帰宅してしまう、なんてことも時々あります。でも、「ああ、おれもぼけたかなあ」なんて心配しているうちは問題ありません。これらは良性健忘と呼ばれ、病的な悪性健忘とは区別されています。
 悪性健忘の場合は、自分が忘れたという事実そのものを覚えていないし、もちろん反省することもしません。痴ほうの中核症状は悪性健忘を主体とした知的機能の低下で、周辺症状としては、異常行動、はいかい、幻想、妄想、情緒障害、うつ、意欲減退などがありますが、そのなかに「ど忘れ」はありません。

2. 老人性痴ほうは神経細胞が死ぬ病気

 老人性痴ほうを引き起こす病気としては、脳血管性痴ほうとアルツハイマー病の2つが大部分を占めます。欧米ではアルツハイマー病の方が脳血管性痴ほうより多いとされていますが、日本では逆に、脳血管性痴ほうの方が多いようです。これらの病気では脳の神経細胞が死に、脳内に隙間ができます。神経細胞は皮膚や血管、肝臓などの細胞と違って再生しない細胞ですので、死んだらもう元には戻りません。そういう意味では、痴ほうを治す薬はまだありません。それでも、周辺症状を改善する薬は次々と開発されており、介護をしている人たちにとっても大きな助けとなっています。なお、老人性痴ほうではありませんが、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、脳腫瘍、AIDS脳症など、手術や薬で治療可能な痴ほうもあるので気を付けてください。また、薬の副作用で痴ほうに似た症状が出ることもあります。
 脳神経細胞が脱落するに従って脳の重量そのものも減少します。小川教授は「90歳の人の肝臓の重さが30歳の時の半分であることと比べると、脳の重量減は10数%と少なく、脳は老化による委縮が少ない臓器です。でも、記憶や判断など知的機能をつかさどる、大脳皮質の神経細胞の数そのものは重量以上に減少しています」と言っています。脳は、その重量が体重の2.5%しかないにもかかわらず、脳の代謝はからだ全体の代謝の20~24%も占めています。つまり、脳は非常に大量のエネルギーを消費する器官なのです。でも、年をとれば脳機能が低下して、代謝も低下、血流も減少します。小川教授は「脳血管性痴ほう患者で脳血流量が少ない人は予後が悪いです。一方、アルツハイマー病ではこのような関連はあまりありません」と話しています。


3. 神経の間隙がポイント

 痴ほうのメカニズムを説明する前に、神経のことを説明しておく必要があります。例えば、熱い物をさわったとします。すると、その熱による刺激は、最終的には脳に伝えられるのですが、その間、その信号はたくさんの神経細胞をバケツリレーのようにして伝わります。1つの細胞内で刺激は電気信号という形で伝わりますが、神経と神経の間には隙間があるので、そこで電気信号は一時、化学物質による化学信号に置き換えられて、次の神経細胞に伝えられるのです。この間隙をシナプスといい、寸法はだいたい10万分の2~3mmです。この化学物質を神経伝達物質といい、神経伝達物質を受け取る次の細胞の受付にあたる部分を受容体といいます。
 痴ほうの問題の多くは、このシナプス周辺の異常で起こっています。火事現場で必死に脱出している時に指先に火傷するほど熱い物が触れても何も感じませんが、暗闇の中をおそるおそる手探りで進んでいる時、指先にちょっとでも熱いものが触れれば、びっくりします。つまり、同じ刺激でもからだの反応は学習で変化したり、その時の状況で変化したりします。これが、同じ刺激に対しては同じ反応しかしないパソコンや家電製品の電気信号伝達システムとまったく違うところです。電気製品だったら一カ所断線してしまうと機能は完全に停止してしまいますが、脳は細胞同士はお互いに完全に結合しないで、大きなネットワークを作って信号を伝達しているので、ひとつの細胞が死んでも、他の残っている細胞でうまくカバーできるということです。たとえ脳梗塞などで脳のネットワークの一部が壊れてからだの一部がまひしても、残ったネットワークを使って壊れた部分を回避する新しい回路を作ればいいのです。リハビリは、その新しいネットワークを形成するための学習ということです。

4. 脳血管性痴ほうは血管が原因

 脳血管性痴ほうは、高血圧や動脈硬化などが原因で脳内の血管が破れたり(脳出血)、血栓や塞栓で血管が詰まったり(脳梗塞)して、脳の神経細胞に酸素や栄養が供給されなくなって細胞が死んでしまうことから起きます。脳のどこの部分が傷害されるかで症状が変わるため、症状に決まったパターンがありません。小川教授は「脳血管性痴ほうは、小さな脳出血や脳梗塞が何回も起き、症状は階段状に徐々に進行します。記憶障害があっても、判断力などは残っていることが多く、これを『まだら痴ほう』といいます。初期症状としては、頭痛、めまい、言語障害、感覚障害、震えなどが多い」と説明しています。
 治療薬としては、脳代謝改善薬と脳循環改善薬とがあります。脳代謝改善薬は、脳内のエネルギー代謝を高めたり、神経伝達物質の量を増やしたり、逆にその分解を抑えたりします。脳循環改善薬には、血管を広げたり、血小板に働いて血液が凝固しにくくしたり、赤血球が変形する能力を高めて血液中を流れやすいようにしたりするものがあります。

5. 女性に多いアルツハイマー病

 アルツハイマー病では、脳の神経細胞が委縮したり、脱落したりします。亡くなった人の脳を解剖すると、多数の老人斑と呼ばれるしみがあり、中心にはβアミロイドタンパクが沈着しています。老人斑は、年をとればだれにでも現れますが、正常老人では脳の海馬という部分に限られているのに対して、アルツハイマー病では脳全体に多数出てきます。老人斑のほかにも、異常なリン酸化を受けたタウタンパク質が細胞の中に蓄積して神経線維がねじれる神経原線維変化により、神経細胞やシナプスが消失します。これがアルツハイマー病の典型的な特徴です。
 小川教授は「脳血管性痴ほうと比べてアルツハイマー病では、人格障害が早期から現れ、病識が早期からない。脳血管性痴ほうが男性に多いのに対して、アルツハイマー病は女性に多い」と指摘しています。脳血管性痴ほうと違って、アルツハイマー病の症状にはパターンがあり、3段階に分類されます。
 まず、第1期では、昔の記憶は比較的保持されているが、最近のできごとに対しては異常に忘れっぽくなる。何回も同じことを聞いたり、重要な用事を忘れたりしても、本人に物忘れの自覚が乏しい。行動意欲に乏しかったり、時にはいらいらしたりもするが、どうにか自立生活ができるレベルです。
 第2期では、自分がいまどこに居るのか、いま何時ごろなのか分からなくなったり(見当識障害)、失語、はいかいなどが出てきて介護が必要になります。
 第3期では、寝たきりとなり、人格も崩壊してしまいます。


6. アルツハイマー病のメカニズムと治療

 発症のメカニズムとしては、アミロイド前駆体タンパク質(APP)が正常に分解されずにβアミロイドタンパクが多量に切り出され、これらが凝縮して老人斑となり、それがタウタンパク質のリン酸化を引き起こして神経原線維変化を引き起こし、その結果として神経細胞が機能障害に陥る、という仮説が現在有力です。アルツハイマー病のごく一部には、親から子どもへと遺伝する家族性のアルツハイマー病があります。
 家族性のアルツハイマー病の原因究明はかなり進んでいて、原因遺伝子として、第21染色体にあるβアミロイドタンパク前駆体タンパク遺伝子、第1染色体にあるプレセニリン1遺伝子や第14染色体にあるプレセニリン2遺伝子の異常などが見つかっています。また、第19染色体にあるアポリポタンパクE遺伝子の産物には、ε2,ε3、ε4の3種類ありますが、このうちε4を持つ人が発症しやすいことが分かっています。
 アルツハイマー病で傷害される神経は主に、記憶や学習に関係しているコリン作動性神経系です。これはアセチルコリンを神経伝達物質として合成している神経系で、大脳皮質でアセチルコリンの減少が特徴的です。アセチルコリンは、ブドウ糖から作られるアセチルCoAとコリンから、アセチルコリン合成酵素によって合成され、シナプスで放出されて、ムスカリン性受容体かニコチン性受容体に結合します。役目を終えたアセチルコリンは、アセチルコリンエステラーゼという分解酵素により酢酸とコリンに分解され、コリンは再び神経に取り込まれて再利用されます。
 現在、治療薬としては、アセチルコリン分解酵素阻害薬が使われています。アセチルコリンの分解を抑えることで脳内のアセチルコリンの量を増やそうというわけです。この他にも、アセチルコリン合成酵素の活性が著しく低下していることからその活性を促進する薬、アセチルコリンの前駆物質なども試みられています。
 また、脳内でも免疫炎症反応が起こっていることが最近分かり、非ステロイド系消炎鎮痛薬も試みられています。ほかに、女性ホルモンのエストロゲン補充療法や、アルツハイマー病のそもそもの発端であるβアミロイドタンパクを分解したり、その産生や凝集を抑制したりすることも研究されています。さらには、神経原線維変化を防ぐためにリン酸化酵素を抑制する薬や、神経の成長を促す神経成長因子(NGF)と同じ働きをする薬の開発なども試みられています。米国では、βアミロイドタンパクをワクチンとして使って、それを攻撃する抗体を作らせることでβアミロイドタンパクを取り去ってしまおうという研究が進められているそうです。
 さまざまな方面からのアプローチがなされているわけですが、小川教授は「消炎鎮痛剤や免疫抑制剤を使う治療法が、神経ネットワークの破壊が進行するのを抑える薬として有望かもしれない」と期待を寄せています。

7. 解明進むパーキンソン病

 老人性痴ほうとはやや異なりますが、運動機能障害が起きるパーキンソン病は痴ほうとともに重要な病気です。パーキンソン病は、中脳の黒質という部位が傷害されることで大脳の中の線条体で神経伝達物質のドーパミンが欠乏して起きる病気です。中年以降に発症、ゆっくりと進行する神経変性疾患で、当初は手の震えや動作がゆっくりするなどで始まり、その後、姿勢保持ができなくなり、ついには言語障害、そして寝たきりとなります。神経伝達物質が欠乏して発症することなど、アルツハイマー病と似ているところが多い病気ですが、アルツハイマー病よりもメカニズムの解明が進み、さまざまな治療法が開発されています。
 治療法としては、ドーパミンが減少して起きる病気なので、ドーパミンの前駆体であるLドーパを投与する療法が主です。もちろんLドーパ療法も根治療法ではなく、何年間も使っていると薬効が落ちてくるという問題があります。Lドーパのほかに、ドーパミンの放出を促進する薬やドーパミン受容体刺激剤、ドーパミン代謝酵素阻害薬などが使われています。
 『レナードの朝』(1990年)という映画があります。流行性脳炎の後遺症によるパーキンソン症候群で、30年間も石像のように固まってしまい、他人と何のコミュニケーションもとれなかった患者たちが、ある日、Lドーパの投与で奇跡のように30年の眠りから覚めたという、1969年夏に米国で実際にあった実話の映画化です。精神科医を演じるロビン・ウィリアムズと30年ぶりに目覚める患者役のロバート・デ・ニーロの名作です。映画では、せっかく長い眠りから覚めた患者たちも、夏が過ぎるころにはまたもとの眠りについてしまいます。薬効が長続きしないのがLドーパの課題だったからです。
 アルツハイマー病でも、このような薬が登場することがあるのでしょうか。小川教授は「パーキンソン病と違って、アルツハイマー病では神経伝達物質が少なくなっているうえに、神経細胞のネットワークも壊れている。工場に例えれば、工場はガタガタで原材料もない状態。工場があって原料だけがないパーキンソン病より、治療はずっと難しい。将来的なアルツハイマー病の治療目標は、『早期に発見する技術を確立して、その進行を遅らせる』になるのではないか」と話しています。

8. 身近な痴ほう予防

 どうも、痴ほう治療は一筋縄ではいきそうにありません。でも、予防に関しては日常生活の中でできることがいくつかありそうです。脳血管性痴ほうでは、動脈硬化がその病気の背景にあるので、糖尿病や高血圧、高脂血症などにならないようにして、食生活や運動、たばこなどにも気を付けることが大切です。それから脳循環を高めるため、いつも活動的であることが必要でしょう。
 では、アルツハイマー病についてはどうでしょうか。アルツハイマー病の人は、若いころ頑固、短気、消極的だったという人が多いという調査結果があります。また、中年のころに趣味が少なく、社会活動に消極的な人が多いともいわれています。小川教授は「しかし、見方を変えると、中年のころからすでにゆっくりと潜行的に発病していると考えられますね」と話しています。若い時の頭部外傷がアルツハイマーの危険因子とされており、頭部に衝撃を受けたり、外傷を負ったりしないよう気を付けることも大切です。

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